オリジナルコラム

出版がわかる!企画から書店販促のすべて

令和の出版人から見た江戸の出版人、蔦重

2025.05.19

先日、東京・両国のすみだ北斎美術館で開催中の企画展 「北斎プロヂューサーズ ― 蔦屋重三郎から現代まで ―」に足を運びました。本展は、浮世絵師・葛飾北斎を世に知らしめた“プロデューサー”とも言える板元(版元)蔦屋重三郎の功績を振り返るものです。

美術館のエントランスをくぐり、企画展示室に入ると、まず大きなパネルに「板元」という言葉の解説が目に入ります。版木の所有から制作・流通までを一手に担い、出版全体を統括した“江戸の出版社”――その言葉に、一気に引き込まれました。

展示室の壁面には、北斎の肉筆画や草稿と並んで、初摺りの『冨嶽三十六景』が整然と並べられています。
鮮やかな錦絵は、一枚ごとに微妙に色味が異なり、200年以上前のものとは思えないほど美しい発色を保っていました。その色彩を生んだ染料や、長い年月を経ても劣化しにくい紙の素材にも、思わず興味が湧きました。

当時の板元は、現代の出版社にも通じる幅広い役割を担っていました。
書籍の企画立案から、絵師(イラストレーター)や彫師・摺師といった職人の取りまとめ、さらに完成物の流通までを一貫して行う姿は、編集者であり営業責任者でもある今の出版プロデューサーそのものです。
一方で、紙や版木の手作りには、現代の何倍もの時間と手間がかかったであろう当時の苦労が偲ばれ、深い敬意を抱きました。

個人的に最も興味を引かれたのは、江戸期から既に“シリーズ化”によるファンづくり戦略があったことです。
『冨嶽三十六景』に続く『北斎漫画』──続刊を心待ちにする読者の姿は、現代のベストセラー連載や書籍ブランドの確立と重なります。
版元の生命線を支えたこの仕組みが、江戸から令和まで脈々と受け継がれていることに感動しました。

蔦屋重三郎と葛飾北斎に焦点を絞った本展は、出版に携わる者ならぜひ一度は訪れたい内容です。
会期は5月25日(日)まで。実際に足を運び、江戸の“出版プロデューサー”たちが築いた世界を体感してみてはいかがでしょうか(奥本 達哉)。

展示名称:《北斎×プロデューサーズ 蔦屋重三郎から現代まで》

会 場:すみだ北斎美術館(東京都墨田区亀沢二丁目7番2号)

会 期:2025年3月18日(火)~5月25日(日)

休館日:毎週月曜日

観覧料:一般1,000円、高校生・大学生700円、65歳以上700円、中学生300円、障がい者300円、小学生以下無料

主 催:墨田区・すみだ北斎美術館

【企画展・公式サイト】

https://hokusai-museum.jp/HokusaiProducers/-----------------------

すみだ北斎美術館・公式サイト

https://hokusai-museum.jp/

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