オリジナルコラム

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“差別ことば”って何だろう?【1/3】

2025.06.04

~出版を目指す人に知ってほしい言葉の配慮~


 今回から3回にわたって、「原稿における差別ことばの扱い方」について考えてみたいと思います。

■ 書籍は“言葉の記録”であり、“社会との対話”でもある
 出版という行為は、ただ言葉を届けるだけでなく、読者という社会との対話でもあります。 
とりわけ書籍化を目指す原稿では、「どのような言葉を使うか」「なぜその表現を選んだのか」という点が重要です。

 ここで問題になるのが「差別ことば」の存在です。 
かつて一般的だった言葉でも、現在では不適切とされるものがあります。では、書籍原稿の中ではどう扱えばよいのでしょうか?

■ 書籍内で問題視される主な「差別ことば」のジャンル
 以下のようなジャンルに属する語句は、出版倫理や出版社の規定により修正・削除を求められることがよくあります。

1. 人種・民族に関するもの 
(例)土人、外人、黒んぼ、イエローモンキー、支那、ジプシー

2. 出自・身分・歴史的背景 
(例)穢多、非人、部落(文脈による)、被差別部落、賤民

3. 病名・障害名の旧表記 
(例)らい病、癩患者、めくら、つんぼ、おし、びっこ、キ○ガイ

4. 性別・性的指向・性自認 
(例)おかま、ホモ、レズ、男のくせに、女のくせに

■ 「書いてはいけない」のではない──“文脈”と“意図”が重要

ここで大切なのは、「差別ことばを一切書いてはいけない」ということではないという点です。

たとえば以下のようなケースでは、使用の余地があります:

– 歴史的な背景を解説するために、当時使われていた語を引用する 
– 差別的な現実を批判的に描写するために、あえて使用する 
– 登場人物の差別的な思考や時代性を描くために用いる(小説・エッセイ等)

この場合、著者の意図が明確であることと、読者に誤解を与えないための注釈や補足が必要になります。

■ 書籍原稿での差別ことばの「安全な扱い方」

以下は、編集現場でもよく用いられるガイドライン的な対応方法です。

【1】語句そのものの言い換え 
「土人」→「先住民(差別的に“土人”と呼ばれた)」 
「らい病」→「ハンセン病(当時は“らい病”と呼ばれていた)」

【2】原文引用時には断り書きを添える 
「原文に差別的表現が含まれていますが、歴史的事実の引用のためそのまま掲載します。」

【3】フィクションではキャラクターのセリフと地の文を分ける 
 例:「あいつは外人だからな」と彼は言った。 
 → “差別的思考を持つ人物”としての描写であれば許容される場合が多い。

【4】脚注・注釈で説明する 
 読者への誤解を防ぐだけでなく、編集側の責任を明確にできます。

執筆者や編集者が「知っておくべき配慮」を丁寧に伝えることは、 
読者との信頼関係を築くうえでも、極めて重要なことです。

■ まとめ

・差別ことばは、時代とともに見直されてきた 
・書籍原稿では「使う/使わない」よりも「どう使うか」が問われる 
・意図の明示、注釈、言い換えなどによって適切に対応できる 
・最終的には「読者への敬意」がすべての判断基準となる

次回は、具体的な原稿事例をもとに「表現をどう工夫すれば伝わるか」についてご紹介します。

出版を目指すあなたの言葉が、誰かの心をあたためるものでありますように。

(浜田 充弘)

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