~出版を目指す人に知ってほしい言葉の配慮~

今回から3回にわたって、「原稿における差別ことばの扱い方」について考えてみたいと思います。
■ 書籍は“言葉の記録”であり、“社会との対話”でもある
出版という行為は、ただ言葉を届けるだけでなく、読者という社会との対話でもあります。
とりわけ書籍化を目指す原稿では、「どのような言葉を使うか」「なぜその表現を選んだのか」という点が重要です。
ここで問題になるのが「差別ことば」の存在です。
かつて一般的だった言葉でも、現在では不適切とされるものがあります。では、書籍原稿の中ではどう扱えばよいのでしょうか?
■ 書籍内で問題視される主な「差別ことば」のジャンル
以下のようなジャンルに属する語句は、出版倫理や出版社の規定により修正・削除を求められることがよくあります。
1. 人種・民族に関するもの
(例)土人、外人、黒んぼ、イエローモンキー、支那、ジプシー
2. 出自・身分・歴史的背景
(例)穢多、非人、部落(文脈による)、被差別部落、賤民
3. 病名・障害名の旧表記
(例)らい病、癩患者、めくら、つんぼ、おし、びっこ、キ○ガイ
4. 性別・性的指向・性自認
(例)おかま、ホモ、レズ、男のくせに、女のくせに
■ 「書いてはいけない」のではない──“文脈”と“意図”が重要
ここで大切なのは、「差別ことばを一切書いてはいけない」ということではないという点です。
たとえば以下のようなケースでは、使用の余地があります:
– 歴史的な背景を解説するために、当時使われていた語を引用する
– 差別的な現実を批判的に描写するために、あえて使用する
– 登場人物の差別的な思考や時代性を描くために用いる(小説・エッセイ等)
この場合、著者の意図が明確であることと、読者に誤解を与えないための注釈や補足が必要になります。
■ 書籍原稿での差別ことばの「安全な扱い方」
以下は、編集現場でもよく用いられるガイドライン的な対応方法です。
【1】語句そのものの言い換え
「土人」→「先住民(差別的に“土人”と呼ばれた)」
「らい病」→「ハンセン病(当時は“らい病”と呼ばれていた)」
【2】原文引用時には断り書きを添える
「原文に差別的表現が含まれていますが、歴史的事実の引用のためそのまま掲載します。」
【3】フィクションではキャラクターのセリフと地の文を分ける
例:「あいつは外人だからな」と彼は言った。
→ “差別的思考を持つ人物”としての描写であれば許容される場合が多い。
【4】脚注・注釈で説明する
読者への誤解を防ぐだけでなく、編集側の責任を明確にできます。
執筆者や編集者が「知っておくべき配慮」を丁寧に伝えることは、
読者との信頼関係を築くうえでも、極めて重要なことです。
■ まとめ
・差別ことばは、時代とともに見直されてきた
・書籍原稿では「使う/使わない」よりも「どう使うか」が問われる
・意図の明示、注釈、言い換えなどによって適切に対応できる
・最終的には「読者への敬意」がすべての判断基準となる
次回は、具体的な原稿事例をもとに「表現をどう工夫すれば伝わるか」についてご紹介します。
出版を目指すあなたの言葉が、誰かの心をあたためるものでありますように。
(浜田 充弘)