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[第52回]-未来に伝えたい、活版印刷の魅力

連載

本を作るのに欠かせない印刷。そのひとつに「活版印刷」があることをご存じでしょうか。

かくいう筆者も活版印刷にはあまりなじみがありません。数少ない経験は銀座の広告会社でコピーライターとして勤務していた40年ほど昔。新聞広告を入校したあと、製版会社から新聞紙面の校正刷りがあがったので校正作業にきて欲しいと連絡が入りました。どうやら掲載日までの時間がなかったようです。同じ銀座内でしたのでデザイナーと徒歩で製版会社に向かいました。
そこで見せられたのが刷り上がったばかりの校正刷りと、銀色に光る鉛の板-活版印刷の原板でした。

この期に及んで誤字があったら、この分厚い鉛板を直さないといけないと思い、緊張して校正しました。そのあと印刷会社に運ぶ時に肩にずっしりとのしかかる鉛版の重みに、これが自分の原稿の重さなのかと感慨にひたった記憶があります。

そうなんです。活版印刷では鉛の板であったり、ひと文字単位の活字を組み上げた刷り版が使われます。

筆者が子どもの頃の5、60年前までは日本全国どこにでも活版印刷所はあったようです。
なぜならこの活版印刷こそ、あのグーテンベルクがブドウ絞り器から考案した木版印刷と同じ原理の原始的な印刷方式だからです。

映画ファンなら、映画版「銀河鉄道の夜」で、主人公のジョバンニが活版工場のアルバイトに行き、ネコの手でひとつずつ活字を拾うシーンを思い浮かべる方もいるでしょう。

※「銀河鉄道の夜」パンフレット表紙

※活版工場のジョバンニ(「銀河鉄道の夜」パンフレットより)

デジタル製版やpdfプリント全盛の現在ですが、いまもこの活版印刷は僅かながらも生き残っています。

デジタル技術からは取り残されたような活版印刷が、なぜいまも生き残っているのでしょうか。

「活字を編む」 長崎・小値賀島 活版印刷の魅力を未来へ 
五感に訴えかけてくるという活版印刷。その印刷所を案内していただきました。まず驚かされるのが活字の数々。数えきれないほどの文字が壁に並んでいます。
(NHK長崎>長崎WEB特集 2024年04月23日)

活版印刷の需要としては、名刺、メッセージカードや栞(しおり)、厚手の用紙にタイプするオリジナルコースターなど、紙の種類や形に自由度の高い小品印刷が多いようです。

厚めの用紙に、クッキリとプレスされた活字。名前の文字が用紙に食い込んで印刷された名刺には、暖かみと文字そのものの存在感が感じられます。

電子書籍を液晶画面でみるのとはまったく違う、活版文字の重厚さはわたし達が忘れてしまった印刷の原点を思い起こさせてくれます。

印刷会社でも活版印刷の灯火を残そうと努力しています。筆者がかつて勤務した凸版印刷では、活版印刷を体験できるワークショップを開催しています。

印刷工房のイベント・活版印刷体験
ワークショップ型の活版印刷体験です。
活字を組んで、印刷までを行う体験です。季節によって、さまざまなプログラムをご用意しています。印刷した作品はお持ち帰りいただけます。
印刷博物館

 ぬくもりを感じる活版印刷。いつまでも残り続けて欲しい技術ですね。(水田享介)

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