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[第57回]-『艶笑 新「いろはカルタ」』を読む

連載

波瀾万丈の人生を歩んできた著者、不破俊輔氏のエッセー集、『艶笑 新「いろはカルタ」』。書籍タイトルに「いろはカルタ」とある通り、ことわざや箴言(しんげん:教訓、格言の意)をいろは順に並べて、連想するまま書き連ねたという構成になっています。

一見、年配者の放談のようですが、ウクライナ戦争、エネルギー問題、ジェンダー平等社会(SDGs)問題など、誰もが避けては通れない社会問題を数多く論じています。

例1)
 (薩長の藩閥政府は明治27年に日清戦争・・・。その10年後には日露戦争・・・。あげくの果てに太平洋戦争に突き進んでいった。・・・明治維新の評価はもっと長いスパンで考える必要がある。)

どのエッセイも数ページの読み切り。どこから読み始めてもよいし、どう読み進むかはすべて読者に任されています。

何冊もの本を上梓してきた著者の筆は飾らない文体で読みやすく、また飽きがこないよう随所に工夫が凝らされています。エッセーの文末を締めくくる笑い話もそのひとつ。著者は「艶笑」と称していますが、なかなかの筆達者です。

例2)
(画家がモデルとアトリエで楽しそうに話し合っているところに突然入り口のカギをまわす音が・・・。
「たいへんだ。女房だ。すぐ裸になっておくれ」

例3)
(夫が今どこにいるか確実に知っている女性をなんと言いますか。
「未亡人と言います」)

こうした定番ジョークを楽しめる方は、ニヤリとしながら楽しく読み通せるでしょう。

※『艶笑 新「いろはカルタ」』表紙

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世代的には昭和40年代に高校~大学生活を過ごしたモーレツサラリーマン世代(?)には心の琴線に触れる一冊かも知れません。

このコラムを書いている筆者(水田)は、不破氏(著者)世代から15~20年ほど後の若輩に当たります。そのため、著書に収録されている流行語、女優名、映画俳優といった固有名詞に心当たりがないものも多く、すべてを理解できたわけではありません。

たとえば、鰐淵晴子、有馬稲子、司葉子、岡田茉莉子などの女優陣は、著者が「歴史的美女」と絶賛するご尊顔も姿も浮かんできません。また、秋山好古、真之兄弟、児玉源太郎などをハンサムの代表と言われても、ほとんどの人はサッパリわからないでしょう。

逆に考えるなら、昭和の時代にはやった人やものごとがそのままパック詰めされた状態と言えるため、昭和研究のよい教材になると言えます。

多岐にわたる話題に目を奪われがちですが、もうひとつ隠されたテーマがあります。

それは、文章からあふれ出る伴侶への深い愛情です。老境に達したご夫婦の日常がおもしろおかしく描かれていますが、そこにはご高齢夫婦ならではの付き合い方のテクニック、イコール愛情表現の巧みさを感じ取れます。

例4)
(朝、目を覚ますとまな板を包丁でトントンと叩く音がし、・・・「ああ、今日も生きているな」と思うのだ。そこで敬老ならぬ敬妻の念に駆られる。
 ・・・カミさんにはイエスマンに徹し、ぜったいに撃って出ることはしない。彼女は私の生命維持装置だからだ。)

この本の主テーマではないかも知れませんが、熟年離婚、定年離婚、介護離婚などの危機にある方には、仲直りのきっかけを作るよい参考書となるかも知れません。

この新いろはかるたの副題は「死ぬ気のない困り者」。敗戦から立ち上がる昭和日本の逞しいエネルギーを感じ取ることができました。

ぜひ、ご一読ください。(水田享介)

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