【講演会レポート】がん専門医の夫と患者である妻が語る「病と向き合う」ということ
2025年11月23日(日)に「がん専門医 妻の進行がんと向き合う」の著者で、
夫であり医師の寺下聡さんと、奥様の寺下雅子さんの講演会が、広島県広島市にあるエソール広島で行われました。
この講演会は、がん患者や家族を支える「がんケアリングセンター広島」の主催によって開かれたもので、会場には患者さん本人だけでなく、その家族、医療関係者など、約60名の参加者が集まりました。
お二人が語られたのは、決して特別ではない——しかし誰にとっても深く刺さる「がんと家族のリアル」でした。
■ 40代で突然告げられた「進行がん」
雅子さんががんと診断されたのは、今から5年前。
当時は新型コロナが猛威を振るい、家族であっても思うように会えなかった時期です。
40代という若さで突然言い渡された「進行した卵巣がん」。
抗がん剤治療や手術のための入退院を何度も繰り返す日々が始まりました。
治療中に雅子さんが特に鮮明に覚えているのが、薬の点滴が始まった瞬間の感覚だといいます。
「本当にこの薬が、お腹の中の腫瘍に作用しているのかな……?
その“怖さ”は今でも忘れられません。」
薬への期待と不安が入り混じる、患者本人でしか味わえない揺れる気持ち。
その言葉に、会場の多くの参加者が深く頷いていました。
■ 医師であり、夫であり、「第2の患者」でもあった
一方の聡さんは、20年以上医療に携わってきた経験豊富な医師です。
しかし、妻のがん治療に寄り添ったことで、それまで医療者としての視点だけでは見えなかった現実があったと語ります。
「同じ“がん”という病気でも、医師と患者では見え方がまったく違う。
家族として初めてその差を知りました。」
医師としては、命に関わるリスクを最小限に抑えたい。
一方、患者は“生活を守りたい”という気持ちも強く、脱毛や副作用といった「日常の変化」への恐怖が大きい。
「毛が抜ける、食べられない……医師として軽視しがちだった部分が、患者にとってどれほど重大か、家族として初めて理解できました。」
医療従事者・家族・患者、その立場によって全く異なる“病との距離感”。
“第2の患者”と呼ばれる家族の苦悩を知ったことで、聡さんは今後の診療にも大きな気づきを得たといいます。
■ 「頑張って」——その一言が相手を傷つけることがある
講演では、患者や家族にかける「声かけ」について話がありました。
それは多くの人がつい口にしてしまう「頑張って」「絶対に治るよ」というフレーズについてです。それについて雅子さんは
「病状がわからない中で“頑張って”と言われると、何をどう頑張ればいいのか分からず、かえって苦しくなることがあります。」と話しました。
相手を励ましたい一心で言った言葉でも、患者には“プレッシャー”として感じ取られてしまう—
実際に経験した人にしかわからない貴重なアドバイスです。
がんは、2人に1人が経験する身近な病気になっています。
だからこそ「よかれと思った言葉が相手を傷つける可能性」について、私たちも知っておく必要があると思いました。
■ 病と向き合うという「経験」を共有する意義
雅子さんは現在、治療を乗り越えて経過観察中です。
表情にはいつものように力強さと優しさがあふれており、夫の聡さんのお話で、会場は真剣なまなざしで聞く方との間に、あたたかな「共感」が広がっているように感じました。
患者・家族・医療者、それぞれの視点から語られる言葉は、多くの人の心に寄り添う内容となりました。
■ 最後に
患者本人、家族、医療者——それぞれが見ている世界は本当に違うと思います。
今回の講演会は、その「違い」を理解し、寄り添うことの大切さを改めて教えてくれるものでした。
寺下さんご夫妻の体験が、一人でも多くの方に届くことを願い、書籍の拡販を進めたいと思いました。






