ChapGPTの登場以降、新しい生成AIサービスが、ぞくぞくと誕生しています。
まずは、SNS「X」を率いるイーロン・マスク氏が2023年秋、「Grok(グロック)」を発表。今年3月には「Grok」をオープンソースにすると明らかにしました。(2024年03月11日)
これは、GPT-4(ChapGPT)がオープンソースではないのに、社名がOpenAIであることを痛烈に批判してのことです。
一方、チャットAI「Claude 3」が、2024年3月4日にリリースされました。実際にプロのライターが利用した記事は、ChapGPT越えを思わせる内容でした。
「GPT-4超え」とうわさのAI「Claude 3」を試す
仕事は任せられる? 若手記者の所感
・・・Claude 3は、結構雑なプロンプトでも「もしかしたら10の労力が7とか6くらいにはなるかも」というアウトプットが出てくる。その性能はSNSでも注目を浴びており「ようやく本物の“GPT-4超え”が出てきた」と話題だ。
(ITmedia NEWS/吉川大貴 2024年03月08日)
また、日本では3月12日、日本語への対応力に富んだ高性能生成AI「大規模言語AI イライザ」が発表されました。
東大発のスタートアップ企業 “国内最大規模 国産生成AI完成”
この生成AIは、基盤となる大規模言語モデルの学習量を示す「パラメータ数」が700億・・・。先行するアメリカの企業の生成AIと同等の日本語の処理能力がある・・・チャット形式の生成AIを今後、一般に公開するほか、企業や自治体など向けに順次、提供を始める予定・・・。
(NHK NEWSWEB 2024年3月12日)
「大規模言語AI イライザ」を先行導入した企業では、電話応対や業務において約50%の省力化を達成したとしています。
これほどの省力化ができるのであれば、AIの活用や労働者との共存は数年のうちに実現しそうです。
もちろん、「AIに仕事を奪われた」とならないよう、AIを管理・運営する仕事を作ったり、配置転換や新事業の立ち上げなども考慮する必要がありそうです。
たとえば社員がAIを使いこなせる根拠のひとつに、これまで人間だけで仕事を回してきた経験が社員にあったからという側面はないでしょうか。そこを見落として、いきなり経験の浅いスタッフに入れ替えると、サービスが停止しかねません。
また安易にAIに頼りすぎて人員を削りすぎると、AIが動作しないなどの非常事態に対応できなくなり、危機管理能力の低い脆弱な組織になってしまいます。
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一方で、クリエイティブの世界ではAI導入はそう簡単に進みそうにありません。
ワコムの広告にAIイラスト? クリエイターから反発の声殺到
同社が経緯を説明する事態に
ワコム米国支社は1月3日ごろ、Xで新春セールに関する内容を投稿。その際、龍のイラストを使っていたが、一部ユーザーから「このイラストはAIで作ったものでないか」と指摘が上がった。
(松浦立樹,ITmedia 2024年1月10日)
手書きイラストの道具を売っているワコムが、生成AIのイラストを使ったなんて?
筆者のようにワコムの歴代ペンタブを複数台所有し、日頃から愛用している身としては心穏やかでは居られません。
ワコム社内の調査では、指摘のような事実はなかったようですが、生成AIの利用がまったくなかったとの確証が得られなかったため、問題のイラストは掲載を停止したそうです。
プロのクリエイティブの世界でも、100%シロとは言い切れない時代に入ったのかも知れません。
日本ではAI利用をメダマにしたイベントが直前に中止となりました。
“脚本に生成AI利用”の声優の朗読劇が中止に
「関係者に多大なる迷惑が掛かる危険がある」
舞台公演の企画などを手掛けるLol(東京都渋谷区)は3月9日、13日から上演予定だった朗読劇「~AI朗読劇~AIラブコメ」の公演を中止・・・。「関係者たちに多大なる迷惑が掛かる危険がある」との理由から、公演中止の判断を下した。
(松浦立樹,ITmedia 2024年3月11日)
過去には大手出版社が生成AIが描いた仮想タレントの水着写真集を発売すると予告しましたが、諸般の事情で発売中止となりました。
それを思わせる朗読劇の中止。
企画した企業では
「AIは、人間のクリエイターに取って代わるものではなく、人間のクリエイターに力を与え、補強するために使われるツール」という記述にも「同じ考え」
に基づいて制作していると説明していましたが、すべての方からの賛同は得られないとの事情があったのかもしれません。
かつて、産業革命期の18世紀イギリスでは、機械に職を奪われた労働者達が機織り機を打ち壊す「ラッダイト運動」が惹起しました。
今回の出来事が、AIを打ち壊す21世紀の「AIラッダイト運動」にならなければいいのですが・・・。筆者の夢想する心配が正夢にならないことを祈るばかりです。
こうした事態に行政も対応を迫られています。
生成AIによる著作権侵害の実例、文化庁が収集開始…
クリエイターらの不安解消狙う
相談窓口などを通して被害実例を把握し、・・・創作した作品と似た文章やイラストがAIで大量に生成されることなどへの懸念を訴えるクリエイターらの不安解消につなげる狙いだ。
(読売新聞オンライン 2024年3月13日)
日本では著作権改正で、許諾なしにAIが著作物から学習できるようになり、AIに無制限で学習させられる版権フリーの国として、世界から注目を集めています。
このままではクリエーターの権利がないがしろにされると、文化庁が判断したのでしょうか。
日本がAI学習し放題と認めても、その結果の表現に安易な模倣やコピーがあれば、改正著作権法であっても著作権侵害となります。
その線引きが難しいため、参考となる事例を集め始めたと言うことのようです。
企業へのAI導入は進めども、生成AIに限っては肝心の「生成」部分が社会的なポジションを得られていない現在、その能力を活用するまでには、まだまだ時間がかかりそうですね。
最後に、このコラムはAIの助けはいっさい受けずに書いています。AIの可能性と危険性を併せて書くには、AIにはその能力にも信頼性にも、いまだ一定のレベルには届いていませんからね。(水田享介)