本は書きたいけれど、出だしの文章がちっとも出てこない。そういう方に向けてこのコラムは書いています。
たぶん、そんなことよりもっと知りたいことがある、の声もちらほら・・・。
文末をどう区切ればいいのか悩んでいる。そういう方はけっこういます。「ですます調」か、はたまた言い切りの「である・だ」調か。確かに悩みどころですね。
輝かしい経歴の自分に見合った、たとえば鴎外や漱石のような格調高い文体で書きたいが、そのような文体の書き方を指南した本はないものか・・・。もはやそのような漢文混じりの難解な文章を好む読者はおらず、したがって指南書も今のところありませんね。
さらによくあるのが、句読点の打ち過ぎではないか、という心配。
これだけ悩みがあると原稿の完成には相当の時間がかかりそうです。そして、この手の悩みは、本を書き始めた方なら誰しもが経験しています。
筆者もかつては悩んでいました。
しかし、これらの問題、いずれも本の見た目やご自身のスタイルや生き方を本の中でかっこよく見せたい願望といった表面的なことに起因しています。本のコンテンツ、つまり執筆内容そのものにはほとんど考えが及んでいません。
実は、文体や修飾のテクニックが身についても、書く中身を考えていなければ、結局は名文どころか文章も生まれようがありません。
そもそも他人にどんなことを知らせたいのか。どう書けば沢山の読者に書き手の意図は伝わるのか。そこに思慮が及ばなければ、
執筆が苦手な人が文章スタイルに悩むのは、書体見本帳の例文に悩むようなもので、あまり意味がありません。
ではどうすればよいのか。
ここに米国人作家の執筆の極意が紹介されています。
「小説をより早く書き上げる方法」についてベストセラー作家が語る
文章を書いている時、行き詰って停滞してしまったり時間がかかるエリアに苦戦してしまったりした経験がある人は多いはず。多くの作品でベストセラーに選ばれているミステリー作家のローラ・チャイルズ氏が、小説を素早く書き上げるためのヒントを解説・・・。
(Gagazine 2024年03月13日)
詳細はリンク先を読んでいただくとして、もっとも重要なことは【「概要を把握する」・・・アウトラインを設定しておくことで思考プロセスをスピードアップし、ストーリーが進行するロードマップの作製を補助してくれる】と作家は語っています。
つまり、思いつくままに書き散らしているとすぐに行き詰まるから、執筆前に全体の構成を考えておきましょう、ということ。
あまりにも当たり前のことですが、執筆になれていない方にはけっこう難しいことのようです。ひと昔前の作家は原稿用紙の前で難しい顔をしていたかと思うと、やおらペンを持って一気呵成に書き上げる・・・そんなイメージの映像が大半でした。すべてウソとは言いませんが、そんなやり方では長編大作を書くことは殆ど不可能です。ましてや机の前に座っただけで一冊の本を書き上げられる人はまずいないでしょう。
前出の作家はこうも語っています。
【執筆の際には、事前に作ったアウトラインをより詳細に詰めていく形で進めることで、物語が進化していくのが感じられる・・・】
実はこの手法、執筆以外のジャンル、映像の分野では広く採用されているよく知られた方法です。
恐らく映像制作に縁のない方には、この作家が書いているヒントの意味を理解するのは難しいかも知れません。
筆者は執筆以外にも映像制作を手掛けていて、その制作において「絵コンテ」、「プロット」、「タイムライン編集」などの工程技法を経ることで映像作品を作ってきました。
また、筆者はデジタル系やCG系の専門学校においてこうした表現技法を教える講義も行ってきました。
映像制作にはかかせないこれらの技法はそのまま、文章作成にも活かせると筆者は考えています。
ではどうすればその表現技法を習得できるのか。これについてはまた次回、ご紹介いたします。(水田享介)