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『うた -日記のかわりに-』のご紹介

2024.10.31

今回は先日完成しました『うた -日記のかわりに-』(著・箭内美智子)のご紹介です。

本書は、早稲田大学卒業後、都内の高校で数学教師として勤務されていた著者の箭内さんが、日記代わりに書きとめた短歌をまとめた歌集。
第一首めが詠まれたのは、著者がある病気で入院していた時のことでした。
消灯時間が早く、夜がひとしお長く感じられる中で「暗がりの中でもできる遊び」を求めたのが短歌作りのきっかけだったそうです。

「あまり生々しくないし、その時の情景を後で思い出すことができる」ということで「これだ!」とピンときた箭内さん。
こうして始まった短歌制作は十余年にわたって続き、やがて大作へと成長していきました。

この間に箭内さんの身の回りで起きたのは「お孫さんの誕生と成長」そして「旦那様との死別」。
蓄積された短歌の数々は、この時の心情も如実に伝えています。

孫の成長を喜ぶ短歌

「我が膝に 足を踏ん張り ピンと立ち 会心の笑み 君は見せたり」
「地下鉄の ホームでばあばに 駆け寄りぬ 小さき姿に ためらいはなし」
「会えぬうち 柔らかき頬は 少年の 顔に変わりて 淋しく嬉し」

旦那様との思い出と、死別後の感情を綴った短歌

「そりゃどうも 笑って話す 君がいた 台北の街 懐かしき街」
「冬の夜 君と二人で 鍋囲む 語らいはずみ うまき酒かな」
「夢の中 我をきづかい 傍にいた やさしき気配は 君のたましい」

俳句の世界には日々の暮らしをあるがままに描いた「写生俳句」という分野がありますが、まさにその短歌版といったところでしょうか。

なお、本書の巻末にはお孫さんが描いた絵のコーナーも。もうお願いしても二度と描くことができない、子ども時代の貴重な絵の数々。家族や友人はじめ、箭内さんの愛が存分に詰まった本に仕上がっています。

ちなみに自分も日記を書くのですが、その日のことをとにかく緻密に描写します。この本の逆の、とにかく「生々しい」タイプです。
何時に起きて何時の電車に乗ったのか、どこで何を食べて誰とどんな話をしたのか。
もともと「良い出来事も悪い出来事も、やたらと緻密に記憶してしまう」という悪癖があり、それを文字に起こして日記にすることで情報を整理しています。こうすることで、心に余計な負担がかかるのを防いでいるのです。
しかし、日記の表現の仕方も人それぞれ。三十一文字でここまで如実に伝わることもあるのかと目から鱗の一冊でした。

自分のこれまでの歩みをまとめて形にしたい、と思う方は多数おられます。
長い文章を書くのが苦手、という方でもこのように自分の思いを伝える手段は数多くあります。どんなやり方でも、その人なりの味わいというのは必ず出てくるものです。
このような歌集のほかにも詩集、写真集、画集など。
ぜひ、自分なりに「これだ!」と思えるやり方を見つけてみてください。

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