フェイクニュースにフェイク映像…いまネット社会では、ニセ情報で溢れかえり、ほんとうの事を知るには複数のソースにあたるか、信頼できる人や情報元に頼るほかありません。
ところで明治以前、江戸時代にも元祖フェイクともいえる人物がいました。その名は「椿井政隆(1770~1837年)」、江戸後期の国学者。動機は不明ですが人から求められるまま、寺社や村、古城などの由来書、江戸以前の古文書を大量にねつ造したちょっと困った人でした。
これが個人の偽造趣味で終わればよかったのですが、その仕上がり具合が真に迫っていたため、現代に至っても本物の古文書として扱われ、架空の伝承や出来事のはずが、事実として今に伝わってしまいました。
日本最大級の偽文書の価値は 滋賀・湖南市「椿井文書」異例の文化財解除へ
近畿一円に数百点が分布する日本最大級の偽文書(ぎもんじょ)「椿井文書(つばいもんじょ)」の一つであることを理由に、滋賀県湖南市の文化財保護審議会が江戸時代の絵図の指定解除に向けた動きを進めている。
(産経新聞 2024年5月29日)
この椿井文書を明らかにしたのが、馬部隆弘中京大教授です。ご自身も椿井文書にまんまとだまされた経験の持ち主で、あるときニセモノではないかと気づき、その研究結果を書籍化しました。
インタビューでは出版に至るまでの経緯が語られています。
『椿井文書―日本最大級の偽文書』/馬部隆弘インタビュー
(Web中公新書/著者に聞く 2020年5月27日)
このような本当のようなウソの話は、筆者の身近にもあります。筆者が育った九州に残る空海伝説。小さな町なのに空海が滝行をしたと伝わる滝がいくつもあります。ただしその証拠は残っていません。
ある歴史番組で高野山再興のお布施を集めるため全国に散った僧が、「この近くの○○(寺社や観光名所)も空海さんがお見えになってますよ」などとありがたい話をして財布の口を開かせたことが、今に伝わっているのではと紹介していました。
本当のことを後世に伝えるにはどうすればいいのでしょうか。ご先祖の歴史やご自身の人生をまとめてネットに残すことで安心できるでしょうか。
膨大な情報が蓄積され続けているネット空間ですが、ある調べによると10年も経たずに、その25%は消失しているそうです。情報を残したはずかサーバー契約が終了したり、接続ルールが変わればあっという間になかったことになります。
世界中のWebコンテンツが日々消失中、10年間で4分の1が消えた
2013年から2023年の間に一時期存在したWebページの4分の1が、2023年10月現在アクセスできなくなっている。古いコンテンツに関してその傾向が顕著…。
(マイナビニュース 2024年5月22日)
後世に残したいはずの記録や記憶が、ネットの契約切れやサーバー側の都合で一瞬にして消える…これがネット社会の恐ろしさです。
では、記録を後世に末永く残す方法とは…。
平戸に残る地名の由来を調べて紹介する連載が、地域で読み継いでもらえるよう冊子になったとの報道を目にしました。
藩主葬儀で「新道」 地名の“なぜ”をまとめ冊子に 長崎・平戸市
長崎県平戸市の平戸まちづくり運営協議会が、平戸の地名の由縁や背景を紹介する冊子「ところの呼び名さがし―平戸の地名再発見」を発行…。薬剤師の近藤司さん(42)=同市職人町=の地道な聞き取り調査に基づく冊子で、後世に残る貴重な史料…。
(毎日新聞 2024年5月29日)
冊子や書籍の印刷物であれば、ネット環境や電子機器がなくとも、だれでもいつでも気軽に読むことができます。
本という形で残せば、情報が消失したり散逸することもありません。また、広く配布することで、すべて消えてなくなる危険性も低くなります。
今の時代、価値ある情報をネットにあげることは常識かも知れませんが、書籍という形で残しておく方法も賢い選択といえるでしょう。
(水田享介)