紐でひとまとめに括った衣類を肩に絡げ、顔を布で隠し、辺りを伺う男。しかも全身が黒装束とは、これいかに。
その一方、全身白装束に怪しげなお面を着けた男。さらには、ふんどし姿で水をかぶる男・・・。
今でもプロのイラストとして通用しそうな精緻で味のある描写です。日本画のようで写実性もあるこれらの絵。いったいいつの時代、どんな画家が何のために描いたのでしょうか。
※「泥棒」、「水行」 五大陸博物館所蔵。Museum Funf Kontinente Facebook より。
実はこの絵は、江戸後期に日本にやってきたあのシーボルトの依頼で日本人画家が描いた市井の人々なのです。
江戸時代には「全身白ギツネ男」が実在した
シーボルトお抱え絵師が残した200年前の日本は「別世界」
ドイツの博物館収蔵の画像で判明
ドイツ・ミュンヘンの五大陸博物館が、収蔵する約2百年前の日本人画家の絵の画像使用を許可した。長崎・出島のオランダ商館に駐在したドイツ人医師シーボルトが、お抱えの町絵師・川原慶賀に発注・・・。
(47NEWS 2024年2月17日)
シーボルトは1823年、日本にやってきます。そして目の前に展開する森羅万象を見て驚愕します。西洋文明に毒されていない日本にしかない風景、そこに生きる人々。そのすべてが日本という独自の文化から生まれたことに感動しました。
しかし、これらの美しく完結した世界は西洋諸国が入ってくるとすぐに失われてしまうだろう。そう確信したシーボルトは、百枚を超す人物風俗画を川原慶賀に描かせたのです。
※「農夫」、「下女」五大陸博物館所蔵。 Museum Funf Kontinente Facebook より。
シーボルトは帰国後、日本研究の集大成として『日本』全7巻を出版し、これらの絵をさし絵として使いました。
そして、これらの貴重な風俗画は永らく博物館に収蔵されたままになっていたのです。
今となっては、江戸時代に暮らす庶民の姿を極彩色で残した資料は、おそらくこれ以外にはないでしょう。
シーボルトが予言したように、200年前の日本人の姿はもうこの絵の中にしか存在していないのです。
もともとは本の挿絵として描かれたものですが、200年後の今、江戸時代当時の日本人達が、いきいきと描かれています。老いも若きもみな、コスプレ(?)して楽しんでいるかのようです。
これらの絵は現在、五大陸博物館のFacebookにて一部を閲覧することができます。「kAWAHARA KEIGA」で検索すると、まとめて見ることができます。
また、五大陸博物館のチケット売り場にてポストカートとしても販売しているそうです。
本と絵が響き合い、江戸という失われた時間と人々を、今も美しく留めています。(水田享介)
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