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[第48回]-AI開発競争の裏側で行われていること-4 何のための生成AIか、浮世絵生成AI

2024.09.03

 世の中の生成AIブームのおかげで、多彩なAIアプリを目にすることになりました。

 生成機能を浮世絵に絞った日本初のAIとして、浮世絵生成AIアプリがこのたび発表されました。

浮世絵風の絵を出力できる生成AI
 Sanaka AIは、“日本の美を学んだAI”として、浮世絵風の画像生成モデル「Evo-Ukiyoe」と、浮世絵カラー化モデル「Evo-Nishikie」を公開…。
 両モデルとも日本の伝統文化の魅力を世界に広めるとともに、教育などへの活用、古典籍の新しい楽しみ方など多くの人々に活用されることが期待される。
PC Watch 2024年7月24日
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1610700.html

 「Evo-Ukiyoe」では日本語で「富士山」や「蝶と花があり、蝶が飛んでいる」などと文字を打ち込むと、それらしいカラーの浮世絵が現れます。

※実際に生成された画像

 役に立ちそうな生成AIのようには見えますが、このアプリにはいくつかの疑問が残ります。

 まず、線画の乱れが気になります。浮世絵の線画ではありません。生成した文字は判読不能で、日本語になっていません。

 また、「Evo-Nishikie」では、モノクロ線画の江戸時代の絵が、たちまち色鮮やかな浮世絵に生まれ変わると謳っています。
 これについても同様に、「Evo-Nishikie」が文字部分をトレースしていますが、判読できる文字として成立していません。
 人物の持ち物も勝手に描き変えられていて、原画をカラー化したとは到底言えません。もはや浮世絵ではない別の何かです。

 彩色はかなりけばけばしく、アプリが勝手に色を付けたものなので、人体を真っ赤に塗ったり、風景の一部にしたりと、クオリティに不安を覚えます。学習や楽しめる教材になるのかは疑問が残ります。

 このような作業なら、デザイン業界では30年以上昔から成立した手法があります。オートトレースでかなり正確なベジェ線画になり、色づけも細かく指定が可能です。もちろん、印刷インクにリンクした指定色で印刷することもできます。
 どの場所がどんな色で塗られるのかわからないAIに頼むくらいなら、デザイナーでなくても、自分で色指定をした方が安心ではないでしょうか。

 江戸時代の原画からこのツールで加工した後の画像を比べただけでも、許容できない改ざんは以下の通りです。

※比較のためEvo-Nishikieのサンプル画像を抜き出し

1.縁側に座る女性が持つ「うちわ」が「扇子」に改ざん
2.縁側にある急須と茶碗の形状が変わっている
3.画像にある三人の女性の着物の柄がまったくの別柄に改ざんされている
4.三人の女性の表情に浮世絵にはないはずの表情が加えられている

 浮世絵とは、その時々の着物柄や持ち物の流行りを敏感に反映した、その当時の流行を映す江戸期の最先端メディアでした。その表現の機微をまったく配慮することなく、適当なパーツを当て込むアプリが、どれだけの役に立つのでしょうか。

 筆者のX(旧Twitter)で問題点を書き込んだところ、数日で百近くの賛同(いいね ♡マーク)を頂きました。誰もがこの生成AIに疑問を感じている証左かも知れません。

浮世絵を描く生成AI、古典文学研究者が開発 サカナAIが無料公開
 どんな絵も浮世絵風に描く生成AI(人工知能)モデルが22日に公開された。本物の浮世絵2万4千枚の画像データを学んだAIが、色彩から和紙のざらっとした質感まで再現…。
朝日新聞デジタル 2024年7月22日)
https://www.asahi.com/articles/ASS7L34R3S7LULFA02DM.html

しかし、浮世絵の文字情報を一切無視して、汚れとしか再現しない浮世絵生成AIでは、江戸時代の文化が継承されているとはいえません。

 このままでは大量のゴミデータをひたすらばらまく、粗悪なAIとの烙印が押されるかも知れません。早急な改善が望まれます。(水田享介)

【関連リンク】
sakana.ai
https://sakana.ai/evo-ukiyoe/

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