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[第69回]-米IT企業がAI事業で書籍著作権をないがしろにしている

2025.03.19

 AIといえば、いまや打ち出の小槌のごとく、あらゆる業種、あらゆるサービスで大きな利益をもたらす技術として重宝されています。

 「これからAIを導入します。」とプレスリリースするだけで株価が上がるなど過熱気味とも言える状態です。

 実はこのAI技術はどのような仕組みでどう動いているのか、利用者はあまり気にとめていません。

 ただし、アメリカの出版業界や作家はAIを手掛けるIT企業をとても警戒しており、著作権侵害をめぐるいくつもの裁判が進行中です。

Metaが海賊版コンテンツを含む81.7TB分のデータでAIをトレーニングしていたことが明らかに
大規模言語モデル「LLaMA」を開発するMetaは、2023年7月に「著作権で保護された書籍を用いてAIをトレーニングしている」として提訴されています。…。
2025年1月には、Metaの従業員が海賊版電子書籍ライブラリのLibrary Genesis(LibGen)を基にしたデータセットから著作権情報を削除したことを認める証言があった…。
(Gigazine 2025年02月10日)
https://gigazine.net/news/20250210-meta-training-torrent/

 記事によると、Facebook、インスタグラムを運営するMeta社は、書籍などを違法にデジタル化、アップロードされ著作権侵害が明かな海賊版電子書籍ライブラリにアクセス。AIが学習するトレーニングセットとして80テラバイト以上を不正に利用して、その証拠を隠滅していることが裁判で争われています。

 AIは学習データがなければ陳腐化して、正しい推論や回答を吐き出すことが難しくなります。データには人間が書いた論文や作品などの創作物が求められるため、すべてを読み尽くした後は、AIの自己崩壊が起こるのではと言われています。

 それを打開するのが、いまだデジタル化されていない創作物です。電子書籍化を許可しない作家や学術団体は、MetaなどのIT企業にとっては喉から手が出るほど欲しい資源の所有者であり、宝の山だったようです。

 筆者が思うに、IT企業としては、著者が命をかけて執筆した作品も、いったん電子書籍化されてしまえば、それが著者が許諾しない違法なデジタル化であっても、学習データ化されるのは必然の成り行きと慣習化したいのでしょう。

Metaが「著作権保護されたデータをダウンロードすること自体は著作権違反ではない」と主張
Metaは「AIのトレーニング目的で海賊版書籍のデータセットをトレントでダウンロードしたこと」を認めました。しかし、Metaは「ダウンロード後にそのファイルを共有した証拠はない」と裁判で主張…。
(Gigazine 2025年02月26日)
https://gigazine.net/news/20250226-meta-pirate-dataset-torrent-seeding/

 Metaの従業員が著作権侵害の証拠隠滅に加担したと証言しても、Metaはまったくへこたれていません。作家からダウンロードしたことを咎められたことはなく、著作物を配布した事実もないと無罪を主張しています。これは従来の著作権法の違反条項は犯していないとの詭弁とも取られますね。

 作家や出版社はMetaほど資金やネームバリューもありません。MetaはIT大企業のGAFAの一角であり、未来につながる技術革新を展開してやっているという不遜な態度と強い圧力で押し切ろうとしています。

 昨年の記事になりますが、Meta社内ではAIに与える(食べさせる)大量のデータ入手方法について検討会議を開いた様子を紹介しています。
 その会議席上、資金力にものを言わせて、著名な作家の作品の出版権を持つ出版社をまるごと買収する案も検討されたようです。

MetaがAI強化のため「訴えられてもいいから著作権で保護された作品をかき集めよう」と議論していたとの報道
こうした会議の中では、新刊1冊につき一律で10ドル(約1500円)のライセンス料を支払うといった案や、J・K・ローリングやスティーブン・キングなどの人気作家の作品を手がけている大手出版社のSimon & Schusterを買収するといった案が検討…。
(Gigazine 2024年04月08日)
https://gigazine.net/news/20240408-meta-copyrighted-works-ai/

 アメリカでは映画会社をまるごと買収する企業がしばしば現れます。ネット配信網を持つ新興企業としては数十年分の映画ライブラリーを入手できるチャンスを逃さない手はありません。それと同じ感覚で出版社も目を付けられているようです。

 こうした手段が通るのであれば、アメリカ国内だけにとどまらず、日本の出版物はもちろん、アニメ、ゲーム、マンガなど日本が誇るポップカルチャーすらもあっと言う間にAIに飲み込まれてしまうことを意味しています。

 この記事ではMeta社内の会議では、AIに与える(食べさせる)大量のデータ入手方法について違法行為を容認する発言もあったと伝えられています。

激しさを増す「AI軍拡競争」を制するため、企業らはルールすら無視したデータの収集に血道を上げており、The New York Timesは2024年4月6日の記事で「OpenAIがYouTubeの利用規約に抵触する形で動画をAIのトレーニングに用いていたこと」や、「YouTubeの親会社であるGoogleも同様の行為をしているためOpenAIの違反を黙認していた…。
(Gigazine/同上記事 2024年04月08日)

 日本のマスコミ報道は相も変わらずAI賛歌が著しい一方、この裁判について報じることはありません。日本で報道がないということは、この問題について声を上げる人も団体も日本にはないに等しいことです。

 さてこの裁判の展開はどうなるのでしょうか。できることならアメリカの著作者側が勝訴を勝ち取って頂きたいものですが。(水田享介)

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