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[第70回]-雑感05-昭和の慣用句にみる日本人の本音

2025.03.26

 長野県のとある自治体で長年続いた懇親会が取りやめになった。

 その会とは町議員と町役場職員、町長がねぎらいと交流の場として酒を酌み交わすことが慣習化した、昭和によくあった年度末の酒席だ。

勤務時間外、自腹、出席強いられる…議員と町職員の懇親会 「時代に合わない慣例」として取りやめ 山ノ内町
 山ノ内町は、町議会3月定例会終了後に毎年開いてきた、町幹部と町議の懇親会を本年度から取りやめる。町側が新年度予算案を可決した議会側に感謝し、議会側が退職する町幹部職員を慰労する目的で長年続いてきた。
(信濃毎日新聞デジタル 2025/03/20)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2025032000396

 なぜ取りやめたのか、その経緯は新聞記事を読んでいただくとして、このコラムでは彼らが意識せず使っているある言葉に焦点を当ててみた。

 町職員は業務で日頃接している議員らと時間外の宴会に半ば強制で出席させられていた。しかも「自腹」。仕事で出席するのにお金を払わされるのは、いまどきどうだろう。

 町長は町議会で丁々発止とやりあう議員と酒を酌み交わすのだから、互いの「腹を探る」絶好の機会。必ずしも嫌な酒席ではなかったかもしれない。町長たるものこういう機会に「腹芸」のひとつやふたつも見せねばなるまい。

 一方の町議員達。懇親会の取りやめはかなりショックだったよう。議長はこう言う。「ざっくばらんに腹を割って話すことができるので残念という町議もいる」(同記事より引用)

 筆者が思うに「腹を割って」話そうという人間に限って本音は言わない。この言い方とは「本音を言えよ」と相手に迫る時の常套句だ。

 町議員は「腹を割って話そう」、町長は「腹を探る」つもり、町職員は「痛くもない腹を探られ」たうえ「自腹」。それどころか「腹を割られた」うえに言い方ひとつで「詰め腹を切らされる」やも。職員が気の毒で仕方ない。

 日本の政治は「腹」用語だけで事足りる。「腹」とはいかようにも使い分けができ、本音を隠す極めて便利な昭和言葉だ。

 しかしながら、どなたかの「腹ひとつ」で物事を決める慣習は、そろそろお終いにならないか。

 筆者は、そういう「腹づもり」なんだが。(水田享介)

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