ステルスマーケティング、略してステマ。このステルスは「正体を隠して」という意味で、マーケティング(広告活動)、つまり正体を明かさずに広告活動を行うといった意味になります。
かつては新聞や雑誌で、記事や読み物と思って読んでいくと、最後に広告だったという経験を持つ方もいるでしょう。いまではそうした紛らわしい広告は規制があるようで、「広告」、「PR記事」といった記載で見分けがつくようになりました。
IT社会の今、広告も多様化しており、パソコンやスマホに断りなしに差し挟まれるウェブ広告を始め、SNSやインスタのメッセージにも広告を見ることが増えました。動画配信のユーチューバ-に至ってはコンテンツとも広告とも見分けのつかない内容が氾濫しているようです。
実のところ、日本におけるデジタル広告はいまだ何ら規制もなくコンテンツを装った広告活動に制限はなされていません。
こうした環境にさらされるのは大人だけではなく、社会常識が未発達な学童や青少年も何のフィルターもなく視聴しているのが実情です。
特に有名人や著名人、人気のインフルエンサーを使ったステマは、多額の報酬を得ながら虚実入り交じったトークにより、多くの若者を簡単に取り込んで顧客化できてしまいます。支払い能力を超えた購入契約につながることも多く、社会問題化しています。
こうした状況を受けて、消費者庁はようやくステマ対策に乗り出しました。
「ステマ」規制へ “インフルエンサー 2割近く行う”結果も
インターネットなどで広告主が広告であることを隠したまま宣伝するいわゆる「ステルスマーケティング」の規制について検討してきた消費者庁の有識者検討会は、「規制の必要がある」とする報告書をまとめました。
消費者庁は今後、法律での規制に向けて制度設計や運用基準の策定などを進める方針・・・。
(NHK NEWSWEB 2022年12月27日)
消費者庁では昨年9月から頻繁に検討会を重ねており、すでに8回を数えます。
(消費者庁/公式サイト)
その実態をまとめた資料では、さまざまなケースが取り上げられています。
第1回 ステルスマーケティングに関する検討会(2022年9月16日)
資料4 ステルスマーケティングに関する実態調査(事務局説明資料)
第1回検討会で示された「資料4 ステルスマーケティングに関する実態調査(事務局説明資料)」では、謝礼を支払って高評価レビューを集める業者の存在、有償でPR活動を頼みながら広告と表示しなかった自治体、映画の宣伝用マンガを漫画家のコンテンツと偽った映画会社など、その実態は広範囲に及び、改めて日本社会にステマが蔓延していることを示しています。
・有名インフルエンサーが美容商品を自分で見つけて使った感想を写真入りで説明→実際は、業者から提供された商品を宣伝して報酬を得ただけで使用していなかった
・タレント、女性アナウンサーがスイーツや健康食品をSNSに写真を上げてほめそやす→実際は、商品は無償提供。謝礼を受け取っていた
この資料で明らかにされたのが、先進国でステマ規制がないのは日本だけという事実には、改めて驚かされました。
(消費者庁/資料4-5ページ)
出版業界でも、健康食品、がん治療方法、長寿につながる食品など、さまざまな効果をうたう書籍が存在しています。
裏付けのない情報で書かれた書籍は、ステルスマーケティングを手助けするツールとして使われる場合もあります。本にも同じ事が書いてあったといって、ステマでしかないSNSやネット情報を安易に信じることは大変危険です。
著者の皆様もご自身の言葉に責任を持ち、うそ偽りのないひとことひと言で読者の信頼を勝ち取るほかありません。
どのような法律でステマ規制がなされるのか。その姿はいまだみえてきませんが、あの著名人が、あの俳優が、あのインフルエンサーが、さも実体験のように語りかけ跳梁跋扈するステマがなくなることを願ってやみません。(水田享介)