昨年の秋、ChatGPTが登場して以降、AIを使った文書作成が社会に広く浸透しました。
たとえば、企業では会議のアイデアや事業改善案の企画、サポート分野では適切な回答例の作成、学校ではレポートの作成支援など多岐にわたっています。大学入試問題や資格試験を解かせて、AIの知能(?)を測ったり、先日は裁判の弁護士役をやらせてみたりと、あらゆるジャンル、職業でその使い方がためされています。
センテンスの短い俳句や短歌などは、生成AIには得意な分野と言っていいでしょう。
すでに「AI一茶くん」などの名称で書籍も出版されています。
また、ショートショートといった短編小説も作られており、中には文学賞に応募できるレベルになったと話題になりました。
チャットGPTは「サイボーグ」 AI利用小説が文学賞に入選
創作に使ったのは、米ベンチャー企業「オープンAI」が開発したAI「GPT―2」。プログラミングの知識がなくても自然な文章ができる「チャットGPT」の前身モデルにあたり、・・・。
(毎日新聞デジタル 2023年3月23日)
日本ではスマホ小説がよく読まれているそうですが、すでに作者がAIに移行しているかもしれません。ネタが尽きた、筆が進まない、といった悩みもなく、人間のようにスランプに陥ることはありませんから。
今後はトリック小説といった特定ジャンルの小説や連載小説、まとまった知識を効率よく学習できるビジネス書なども生成AIが手掛けることでしょう。
編集者や出版社にとっては、願ってもない優秀な作家を見つけたのかもしれません。
いっぽうで作成AIの陰の部分として、節操のない引用、盗用まがいの文章表現や倫理なき危険思想の主張などがあげられます。時にはフェイクニュースやウソの事例をでっち上げて、もっともらしい文書を提示するため、AIに何らかの規制が必要とする研究者も現れているのが現状です。
先日、文化庁、内閣府から「AIと著作権の関係等について」という文書で、AIについて日本政府の見解が示されました。とても興味深い文書ですので、目にした方も多いことでしょう。
生成AI画像は類似性が認められれば「著作権侵害」。文化庁
「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」において、著作権法の適用条文が異なるため、分けて考える必要がある・・・。
AIの開発および学習段階において、著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用行為は「原則として著作権の許諾なく利用することが可能」だという。
(PC Watch/劉 尭 2023年6月5日)
オリジナルの文書は以下のリンクに公開しています。
「AIと著作権の関係等について」(pdf書類)
(文化庁著作権課・内閣府)
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_team/3kai/shiryo.pdf
この文書では、AI研究に規制を加えることより、いっそうの研究と発展を促すことを主眼として、以下のように定めています。
「AI開発のような情報解析等において・・・原則として著作権者の許諾なく利用することが可能」(「AIと著作権の関係等について」より引用)
現存する創作物をAI研究に利用する場合は、その著作権を侵害したことにならないということです。(例外もある)
いっぽうでAIで生成された画像などの公表・販売は、現行の著作権侵害の判断事例に従うこととしています。そのため、著作権を侵害しているAI生成物は、損害賠償や差し止めを受けたり、刑事罰の対象となる、とあります。
文書では、例として画像への言及がありますが、文章や表現方法などにも同様に適用されると、筆者は考えます。
もし、ChatGPT等を使って執筆を肩代わりさせ、楽に本を作ろうと考えている方は注意が必要です。
その小説のトリックが生成AIのオリジナルのアイデアなのか、また人に感動を与える名文の一節が過去の誰かの文章ではないのか・・・。そのチェックは生成AIに執筆を命じた人間に全責任がかかってくるのです。
AIが書いた全文を人間の手でチェックできるでしょうか。筆者は不可能だと思います。もしそのチェックができる知見のある人物なら、AIなど使わずに自分の力で本を書けることでしょう。
「著作権チェックもAIにやらせればいいではないか」。それも一案ですが、生成AIは往々にしてフェイクを創作する傾向があります。またそのような都合のよいAIはまだ作られていません。
著作権侵害の可能性を残した本を書店に並べてくれる出版社も書店も今の社会にはありません。やはり、本を出すには自分の頭の中から産み出すしかなさそうです。(水田享介)