2023年7月4日、文部科学省が学校教育の場で「ChatGPT」を使う際の考え方や注意点をまとめたガイドラインを公開しました(リンクは本コラム末尾の参考資料)。これは暫定的なガイドラインになります。
このガイドラインを紹介する記事が、早くも同日に出ています。
小中学校向け生成AIガイドライン 文科省が発表
“夏休みの宿題にChatGPT”はどう指導する?
ガイドラインでは基本の考えとして「生成AIが、どのような仕組みで動いているかの理解や、どのように学びに生かしていくかの視点、近い将来使いこなすための力を意識的に育てていく姿勢は重要」・・・。
現時点では限定的な活用から始めるのが適切で、十分なリスク対策を立てられる学校でパイロット的に取り組みを進め、成果や課題を検証する必要があるとしている。また、ファクトチェックをする習慣など、AI時代に必要な資質や能力の向上や、それを教える教師のAIリテラシーも高める必要がある・・・。
(ITmedia NEWS/松浦立樹 2023年7月4日)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2307/04/news155.html
夏休みを前に文科省が生成AIに対する見解を明らかにする姿勢は評価できますが、筆者はガイドラインが指し示す内容が現実離れしていて、大いに疑問がわき上がってきました。
ガイドラインにあるように、「生成AIの仕組みを理解」して、「使いこなす力を育て」、「ファクトチェックをし」、「教師のAIリテラシーも高める」指導をすべてできる小中学校が、いまの日本に何校あるでしょうか。
ただでさえ教員不足、時間外労働で回らなくなっている学校現場に、新たにAI教育を押しつけて、理想的な姿を語られても、それを受け止められる余裕が教職員にあるでしょうか。はなはだ疑問です。
「ChatGPT」でどう学ぶかよりも、このAIにはもっと大きな問題が潜んでいます。
それは筆者が何度もコラムで指摘しているように、「著作権の侵害」、「無断引用による著作物の改ざん」などです。
「ChatGPT」が生成する回答が引用元を明らかにせず、文章の書き換えで、著作権問題を回避できると開発元は考えていたのかもしれません。しかし、そのような手段でも、著作物の無断使用が明らかになってきました。
「ChatGPTの学習に海賊版の本が使われた」として作家がOpenAIを告訴
学習用データセットの内容や出どころは不透明になっているため、無数の人々の著作権とプライバシーを侵害しているとして集団訴訟が起こされるなど、著作権上の問題も出ています。さらにその他、2人の小説家が「ChatGPTは、著作権で保護された作品を海賊版で入手し、トレーニングに使用している」として、ChatGPTを開発したOpenAIを告訴・・・。
(GIGAZINE 2023年7月4日)
https://gigazine.net/news/20230704-pirate-training/
ネット上に公開されていない書籍について「ChatGPT」にたずねると、その内容が事細かに回答される--普通はあり得ないことが起きているとして、著作権をもつ小説家に告訴されています。
不正な手段で書籍データを学習して、著者に無断でネット上に公開していますから、二重に著作権を侵しています。
このような不正行為が米国で許されるはずがありません。すでにいくつかの裁判が始まっているそうなので、いずれ「ChatGPT」は米国でもEU全体でも、今のサービス品質のまま公開し続けるのは難しくなるでしょう。
世界に衝撃「ChatGPT」開発企業のCEO 独占インタビュー
(NHK NEWSWEB 2023年4月10日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230410/k10014034031000.html
そういえば先日、「ChatGPT」開発元「オープンAI」のCEOが日本にやってきました。日本に開発拠点を作ると言ったり、官公庁との協業に積極的だったりしたのもうなずける話です。
米国内での著作権問題を解決しない限り、「ChatGPT」の新たなビジネス展開は望めない段階に来ているようです。(水田享介)
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■参考資料
「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」の作成について(通知)
(作成:文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf