毎朝、数枚の原稿を執筆し続けて、数ヶ月後には滞りなく一冊の本に仕上げてしまう執筆者の方がいます。
一方で、頭の中には数十年の経験が詰まっていて、あとはそれを書くだけですが、なかなか文章にすることが出来ない方もいらっしゃいます。
もちろん、アスカエフプロダクツではスラスラと原稿ができあがり、予定通りに出版できる仕事を理想としています。
計画通りに本ができあがるのは、ひとりの編集者としてありがたいことです。しかし、出版の目的はそれだけではありません。
弊社は個人出版を手掛けていることもあり、書き慣れた執筆者や何冊も本を書いてこられた方よりも、一般の方、初めて本を書くかたのお手伝いに重点を置いています。
これまで本を書いたことがなくとも、貴重な体験や価値のある知識、後世に残しておきたい知見や技術をお持ちの方はたくさんいらっしゃいます。そうした方々の経験と英知を文章に書き残し、一冊の本としてまとめることも大事な出版事業と考えています。
●自慢話ばかり続くと、誰も近寄らなくなります。
気をつけていただきたいのは、文章も会話も読む人や聞く人への気の配り方に違いはないということです。
経験豊富、役職のある方は、若い社員と会話がない、自分との会話を避けられている、と気づくことがあります。そんなときご自身の話し方に「昔はよかった」式の懐古的な振り返りばかりになっていませんか。
こんな経験もあるかもしれません。若者に向かって「昔はこうやっていて良かった」、「昔はこんなに苦労して働いていたが、今では・・・」、「最近の若い人はやり方が・・・」などと口走っていたら、自分の周囲から人がいなくなった。
教訓を語ったつもりが自慢話になっているケースが多いものです。
ご自身が積み上げてきた人生経験を文章にするとき、往々にして自慢話に終始することがあります。
成功体験は思い返すだけで楽しいものです。しかしながら、そのことは自分の胸にしまっておきましょう。
本を手に取る人は、あなたの経験から参考になる情報や何かしらの教訓を得ようとします。他人の成功はまぐれかもしれません。ほかの方の援助に触れず、全部自分の成果だといっているかもしれません。
だとすると、成功話などまったく参考にはなりません。しかも何十年も昔の話であればなおさらのこと。「こう頼んだらうまくいった」など、周囲の人や組織をどのように巻き込んだのか、助けられたのか。そうした客観的な視点がなければ、読む人が納得する内容にはならないでしょう。
●他人の悪口を書いてしまう人
自慢話だけなら誰も被害を被らずに済みますが、他人への誹謗中傷を書いてしまうことがあります。やっかいな問題を引き起こします。
自分でそう思うのは自由ですが、文章にまでして、ましてや本になると悪口の範疇を超えてしまいます。
「リーダーはこうすればよかったのに」、「あの人がいなければプロジェクトは成功したはず」。書いたご本人は確信あっての文章かもしれません。しかし、第三者を交えた検証や相手の反論の機会もなく中傷することは、現在の社会では許されない行為です。
謝罪だけですまず、本の回収を求められたり名誉毀損で訴えられる可能性もあります。
最近でも、とある人物を批判したツィッターに「いいね」を押した国会議員が、東京高裁の判決で損害賠償の支払いを命じられました。
賠償金の支払いを命じられた国会議員は、11万人のフォロワーがあり社会的影響力を考慮しての判決といわれています。
暴言ではなかったとしても、他人を揶揄非難する発言への同調行為も損害賠償請求が認められる時代です。
書籍に文章として残す発言には、ツィッターよりも広く長い期間、周囲への配慮が求められます。
●個人の政治観や宗教観にこだわり、他人に押しつける人
我が国では個人が持っている政治思想や宗教について語ることは自由です。基本的人権として認められています。
ただ、自伝やビジネス書の中で、その思想を他人に押しつけるような書き方では賛同者を得ようとしても、嫌われるだけでしょう。
もちろん、そういった思想に賛同してくれる仲間に向けて出版するのは自由です。書籍化を容認する出版社もありますので、一概に出版が不可能というわけではありません。
アスカエフプロダクツでは偏った考えの原稿と判断した場合は、編集協力も出版もお断りしています。
●成功体験より、失敗体験を語れる人を求めています。
ではどういった方が著者として求められているのでしょうか。
やはり、成功体験よりも失敗体験が学びの教材としては求められます。
著者の方が体験した失敗は実例であるため状況がわかりやすく、なおかつリアルな体験なので価値があります。
もちろんただの失敗話で終わらず、なぜ失敗したのか、どうすれば失敗を回避できたのか。また、被害を減らすリカバリーはどうしたのか。
こうしたリアルな実体験こそが、本の価値を高めます。また読者の共感を呼びやすいものです。
何でも仮想体験ですませられるこの時代ですが、フィクションに食傷気味の若者はリアルな失敗談、体験談を求めています。
これから本を書こうという方は、いくつもの失敗から成功につながる技術や習慣を身につけて今があるのです。その成長の過程こそが、今の時代に求められていると言えるでしょう。(水田享介)
※このコラムは、アスカ・エフ・プロダクツ 取締役 浜田充弘氏、代表取締役社長 奥本達哉様へのインタビューを元に構成しています。